― 8月5日 映画『イエロー・ケーキ』の鳥取上映に寄せて―
この世の果ての核の毒の捨て場
― フクシマの大惨事の裏側で起きていること ―

 

2012年7月24日
土井淑平(ウラン残土市民会議運営委員)

 

映画イエローケーキ  映画イエローケーキ
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1 フクシマの大惨事の裏側に隠された日本の原発の真実
  世界のウラン採掘地の実情を記録したドキュメンタリー映画『イエロー・ケーキ 〜 クリーンなエネルギーという嘘』が、いよいよ8月5日に鳥取市で山陰初の上映を行ないます。
  この映画の日本公開に当たって、ヨアヒム・チルナー監督がドイツから来日し、1月23日に東京の自由報道協会で記者会見を開いたさい、わたしも配給元のパンドラの要請により記者会見に同席し、1950年代末〜60年代初めの人形峠におけるウラン採掘の状況を報告しました。
  また、1月30日に渋谷のアップリンクで行なわれたロードショーの幕間トークにも出演して、人形峠周辺の旧ウラン鉱山跡地のなかで唯一、ウラン残土の撤去を要求して立ち上がった鳥取県湯梨浜町(旧東郷町)方面(かたも)地区の住民たちの、18年間にわたる血の滲む撤去運動の経過について話しました。
  人形峠は岐阜県の東濃地区とともに日本のウラン鉱山として、その当時は国産ウランの開発の期待も持たれましたが、質量とも商業ベースに乗るウランを産出できないことが分かったため、原子燃料公社(現在の日本原子力研究開発機構の前身)もむなしく人形峠から撤退しました。
  そのあとに野ざらしで残されたのが膨大なウラン残土でした。それは原子力開発の入口の核のゴミ≠ニいうよりも核の毒≠ノ当たります。つまり、このウラン残土の野ざらし放置は、原子力開発が入口から出口まで放射能のタレ流しで成り立っていることを、そもそもの初めから示す証拠物件≠セったのです。
  そのウラン残土による環境汚染の実態も、わたしたち市民グループと京大原子炉実験所の小出裕章さんの共同調査で明らかとなりました。そればかりか、当時の原子燃料公社の資料から、人形峠周辺では延べ1,000人のウラン採掘労働者のうち70人の肺がん死が避けられない、とのデータも得られました。
  わたしは人形峠のウラン残土問題への取り組みを始めたころ、拙著『環境と生命の危機 ― 核のゴミは地球を滅ぼす』(批評社、1990年)でつぎのように書きました。「わたしたちは、人形峠の現実からあらためて、日本がウラン資源を輸入している海外のウラン鉱山における先住民の被曝と環境の汚染、ひいては、また、国際的なスキャンダルとなったナミビア・ウランの「略奪」と「密輸」などの問題に眼を向ける必要がある」と。
  20年以上も前にわたしが問いかけた問題に対する一つの回答が、ヨアヒム・チルナー監督の映画『イエロー・ケーキ』だったのです。それはこの世の果ての核の毒の捨て場をドキュメンタリーで伝え、わたしたちにフクシマの大惨事の裏側に隠された日本の原発の真実を明るみに出すものです。
2 人形峠の比ではない驚くべきドイツのウラン採掘地
  現在、日本は福島第一原発事故で廃炉になった4基の原発を除いて、50基の原発の燃料をすべて外国からの輸入でまかなっています。日本のウランの輸入先は、@オーストラリアAカナダBナミビアCニジェールD米国Eカザフスタンの順です。
  『イエロー・ケーキ』が取り上げているのは、このうちドイツ、ナミビア、オーストラリア、カナダの4カ国のウラン採掘地です。まず、映画は監督の足下にある旧東ドイツのヴィスムート鉱山から始まりますが、この映画のチルナー監督はもとより、フクシマの大惨事のあと脱原発を宣言したドイツのメルケル首相も、このヴィスムート鉱山のある旧東ドイツの出身者だということは留意するに値すると思います。
  旧東ドイツ南部地域で産出したウランは、広島型原爆の3万2,000発分に相当するといわれます。ヴィスムート鉱山跡地には人形峠の比ではない、はるかに巨大なウラン残土のボタ山が1,000以上もある、との話にわたしはビックリ仰天の思いでした。これに加えて、ウラン鉱石の選鉱クズであるウラン鉱滓もまたきわめて深刻です。
  このウラン鉱滓を窪地にどんどん捨てていった結果、まるで湖のような大きさのウラン鉱滓の池がいくつもいくつも連なり、こうした核廃棄物の捨て場の荒涼とした光景が眼前に広がっているのです。こうして、ウラン残土やウラン鉱滓が野ざらしで捨てられた旧東ドイツ南部の鉱山地帯は、人が近寄ることのできない危険地帯≠ニなっていることは言うまでもありません。
  そればかりではなく、この映画のナレーションを通して、ヴィスムート鉱山に雇われた労働者が12万人で、ラドン被曝によると思われる公式の死者が7,163人に及ぶ、との話にもわたしはあらためて驚かざるを得ませんでした。これは人形峠の肺ガン死の推計値の100倍です。
3 女性がウラン採掘の現場で働くナミビアの鉱山
  さて、『イエロー・ケーキ』はドイツを皮切りに、ナミビア、オーストラリア、カナダのウラン採掘地の状況を冷静に追って行きます。それはわたしが20年以上も前に危惧していた通り、それぞれのウラン採掘地の先住民たちの環境と生命の脅威となり、かれらは存亡の危機に立っているのです。
  ナミビアのロッシング鉱山では女性の雇用が常態化しています。放射線の影響をもっとも受けるのが女性と子どもであることは周知の事実ですが、ここではウラン鉱山の放射能の危険性を何も知らされずに、女性たちが男性にまじって砂ボコリの立つ爆破の現場などで働いているのです。彼女らが砂ボコリの放射能に何ら頓着せず、自らの幸せと人生の平安を信じて働いている姿は、逆に恐ろしい現実を裏返しに物語るものです。
  しかも、ナミビアではここ30年間で10億トンのウラン鉱石が採掘され、それがナミブ砂漠の環境に深刻な影響を与えています。いわゆる選鉱クズのウラン鉱滓は2億5,000万トンに達し、ここでもウラン鉱滓のダムが茫漠と眼前に広がって見えてきます。強い雨が選鉱クズのダムに流れ込むと、地表の選鉱クズを侵食して流出し環境を汚染するのです。
4 闘うオーストラリアの先住民と長期戦のウラン採掘企業
  オーストラリアの先住民のアボリジニーもまた存亡の深刻な危機に立たされています。ミラー族の族長イヴォンヌはこう語っています。「この国がどうなるか心配だ。昔は狩りをしていた。ずっと昔のことだ。鉱山はなかった。狩りだけで生活していた。槍を使って魚も捕った。いろいろ変ったけど、森のものを食べる。私たちは伝統を守る」と。
  オーストラリアの北部のカカドゥ国立公園には、40万年前から人が暮らしていた痕跡があり、その一角にレンジャー鉱山やジャビルカ鉱山があります。ジャビルカの採掘反対運動の先頭に立ったイヴォンヌは、亡くなった父親の「会社と闘うのだ」との遺言を守り、オーストラリア最大の環境保護団体ACF(オーストラリア保護基金)の支援を受けながら、歯を食いしばって闘ってきたのです。
  レンジャー鉱山ではすでに150回以上も放射性物質の漏出が起きています。イヴォンヌも洪水による被害を恐れています。レンジャー鉱山の選鉱クズつまりウラン鉱滓は、廃鉱となった穴に貯蔵し、1万年は密閉されることになっている、と鉱山の経営者は説明しています。ここにも選鉱クズのウラン鉱滓の巨大な池が広がっていて、ミラー族の人たちはウラン鉱山ができる前の状態に戻すよう要求していますが、経営側はそんなことは不可能だと反論しています。
  この映画を観て、ミラー族の抵抗がどこまで可能か、心配になってきます。世界3位のウラン採鉱会社ERA(エナジー・リソーシズ・オブ・オーストラリア)は、ジャビルカの採掘許可を求めて、5年おきにミラー族に打診することができる契約になってるからです。そのERAの経営責任者は、「ジャビルカは重要なプロジェクトです。それは膨大な資源であり、わが社にも株主にも大変な利益をもたらしてくれるでしょう」、と今後のミラー族との交渉に期待を寄せ、長期戦の構えを取っています。
5 死に絶えた湖沼が茫漠と連なるカナダのウラン採掘地
  カナダ北部のウラニウム市はヴィスムートのカナダ版で、冷戦時代にはウラン鉱山が33もありました。現在、ウラン採掘労働者は飛行機でシガー・レイク鉱山まで往復しています。2週間働いて1週間家で休むスケジュールだそうです。しかし、このウラニウム市は至るところ秘密だらけの都市で、とくに放射能のことはしゃべれない状況にあると言われています。
  カナダにある世界最大のエルドラド鉱山は、冷戦時代に米国の核戦略に重要な役割を果たしました。というのも、ここで掘られたウランがカナダ政府の命令により、米国に極秘で輸出されていたからです。
  ウラニウム市の周辺でウラン採掘に当たっている企業には、フランスのアレバ社も含まれます。アレバ社といえばフクシマの大惨事の復旧作業のひとつ、つまり日本が事故炉の循環冷却システムの技術を導入した世界最大の原子力複合企業です。
  ウランが採掘されたカナダ北部の湖沼地帯も、選鉱クズのウラン鉱滓の投棄でひどく汚染され、ここでも生物のいない死に絶えた湖沼がつぎからつぎに、荒涼というか茫漠とした光景で眼前に展開されます。
  カナダの先住民ジョック族の最後の族長ジェフリーはインタビューに答えてこう語っています。「なぜこの美しい土地を掘り返す?私たちはこの土地から食べ物を得ていた。何でも与えてくれる土地だ。なぜこの土地で採鉱する?私たちはここで生きる。汚れなき環境で生き、きれいな水を飲みたい」と。
6 わたしたちが原発と手を切らねばならない理由
  ヨアヒム・チルナー監督の『イエロー・ケーキ 〜 クリーンなエネルギーという嘘』は、この世にあってこの世のもにならぬ、核の毒の地獄巡りのドキュメンタリーです。
  わたしたちの享受している電気のうち、原発によってつくられた電気が、この地獄の毒をたっぷり含み、その毒の汁がわたしたちの毛穴という毛穴から、それと知らず噴き出ていることは、決して忘れてならないことです。
  フクシマの大惨事はその象徴的にして集中的な出来事でした。しかし、かりにフクシマのような大惨事に至らなくとも、日本の原発が運転している限り、かりに目に見えずとも、この世のものならぬ核の毒をばらまいていることは、否定しようがありません。
  わたしたちが原発ときっぱり手を切らねばならない理由は、原発がチェルノブイリやフクシマのような大惨事の危険性を抱え、しかも入口のウラン採掘から出口の高レベル核廃棄物の投棄まで、要するに始末におえない核の毒のタレ流し≠ナ成り立っているからです。
 
(追記)2012年1月23日のヨアヒム・チルナー監督の記者会見に同席したわたしの発言、並びに、1月30日の東京・渋谷のアップリンクのロードショーの幕間のわたしのトークは、以下のホームページに同時掲載しています。

ウラン残土市民会議のホームページ
 
土井淑平の公式ホームページ

 

  <8月5日 山陰初上映>
『イエロー・ケーキ 〜 クリーンなエネルギーという嘘』
 

(日時)8月5日(日)14:00〜
(場所)県民ふれあい会館(JR鳥取駅南)
(主催)ウラン残土市民会議/えねみら・とっとり/鳥取県映画センター
/鳥取県教祖東部支部/鳥取高教組東部支部/鳥取県連合婦人会
(入場料)1,000円
(連絡先) 鳥取高教組東部支部 0857−23−4812

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