=2009年3月14日、鳥取市にて=
高レベル放射性廃棄物の地層処分の鳥取キャラバン
=詳報と批判=
 
土井淑平(ウラン残土市民会議)
 

はじめに                                  
 高レベル放射性廃棄物の地層処分を推進・宣伝する全国エネルギーキャラバンが3月14日、経済産業省資源エネルギー庁と新日本海新聞社の主催により鳥取市のさざんか会館で行なわれました。参加者を公募する『日本海新聞』の紙面を見て、わたしも申し込んで参加しましたので、そのもようを簡単に報告します。
 昨年9月に福井市で始まったこの全国エネルギーキャラバンは、今回の鳥取市で24回目で、翌日の3月15日には三重県津市でも行なわれました。これと並行して、資源エネルギー庁は全国の都市でワークショップも進めており、その回数はすでに実施済みないしは実施予定も含めて、全国の15の都市に及びます。
 さて、鳥取市でのエネルギーキャラバンですが、中国電力鳥取支店、日本原子力研究開発機構人形峠環境技術センター、新日本海新聞社の動員でほぼ満席で、第1部は東嶋和子(科学ジャーナリスト)と渡邊厚夫(資源エネルギー庁放射性廃棄物等対策室長)のエネルギー対談に当てられました。
 第2部はデスカッションで、パネラーは上記2名に杤山修(原子力安全研究協会処分システム安全研究所長)、森原昌人(新日本海新聞社編集制作局長)、井上耐子(鳥取県連合婦人会会長)、有吉健彦(鳥取環境大学2年生)の6人でした。

1 原子力発電はクリーンなエネルギーか?
 第1部の東嶋・渡邊両氏の対談は、資源エネルギー庁の資料と映像を使いながら、原子力発電がCO2の排出を抑えるクリーンで効率的なエネルギーであって、小さい容器に収め二重三重のバリアを築いて地下に埋設する高レベル廃棄物の地層処分も、まるでなんの問題もない安全なものであるかのような、きれいな絵空事に終始した説明でした。
 原子力発電の宣伝はウソだらけで、たとえば1トンのウランが核分裂すると石油200万トン相当のエネルギーが得られるとして、「ウランは石油の200万倍のエネルギー」といった宣伝がなされてきましたが、ウランの採掘から原子力発電の建設・運転を経て放射性廃棄物の処理・保管まで、あらゆる過程で膨大な石油を必要とし、原発が産出するエネルギーと支出するエネルギーの差引き、つまりエネルギー収支はむしろマイナスだという研究もあります。原子力発電の始めから終わりまで、つまり全過程での大量の石油の使用は、必ずや大量のCO2を発生させているはずです。
 しかも、これは私たちが人形峠周辺のウラン残土問題の取り組みを通して教えられたことですが、ウラン1トンの入手は250万トンのウラン残土を発生させるので、なんらクリーンでもなく効率もよくありません。極めつけは、日本だけでなく世界中の政府や原子力当局を悩ませている、今回のテーマの高レベル廃棄物という途方もない猛毒のあと始末です。
 のみならず、これに加えて、死の灰を全世界にばらまいた1986年の旧ソ連のチェルノブイリ原発事故が身をもって示した大事故の恐るべき危険性があります。チェルノブイリのような地球汚染の大惨事には至らずとも、1999年の東海村の核燃料加工工場(JCO)の臨界事故は、原子力事故の恐ろしさを身近に実感させましたし、さきの新潟県中越沖地震は地震地帯に立地する日本の原発への重大な警鐘です。
 原子力発電がクリーン・エネルギーの代表格であるかのような説明自体がナンセンスですが、それに輪を掛けた絵空事が高レベル廃棄物の地層処分の説明でした。そもそも地層処分する高レベル廃棄物の中身がなんであるかの説明がまったくないのですから、あたかも放射能抜きにガラス固化体の容器を地下に埋設するだけの、美しいおとぎ話になってしまうのです。

2 絵空事に終始する高レベル廃棄物処分の説明
 第2部のデスカッションも、司会の東嶋氏がパネラーへの誘導質問のかたちで、当り障りのない司会進行につとめた結果、高レベル廃棄物の地層処分の問題点が意図的に隠され、
パネラーの一人である鳥取県連合婦人会の井上耐子さんの発言と最後の聴衆席からの私の質問がなければ、シャンシャンシャンで終わるところでした。
 当局側は東嶋・渡邊・杤山の3氏の発言を通して、「日本のエネルギー自給率を上げるには原子力を使わないといけない」「原子力は発電コストもごみ(放射性廃棄物)処理費も安い」「高レベル廃棄物はガラス固化体に詰め二重三重に防護して地下に埋設するので安全である」「高レベル廃棄物の地層処分は地域振興につながる」などのメッセージを資料や映像で、手を変え品を変えて伝えようとしました。
 しかし、こうしたきれいごとの羅列に終始する手法は、あたかも市民を愚民扱いするもので、最終処分のための処分候補地の公募を開始した2002年から今日までに応募を検討したとされる全国各地の市町村のいずれでも、地元を揺るがす大騒動になっている事情にふたをしたまま、ウソも100回いえばホントになる奇蹟に賭けているかのようです。
 鳥取会場で配布された資料「高レベル放射性廃棄物と地層処分について」によると、応募開始から昨年までに応募が検討された市町村は、福井県和泉村、高知県佐賀町、熊本県御所浦町、鹿児島県笠沙町、長崎県新上五島町、滋賀県余呉町、鹿児島県宇検村、高知県津野町、高知県東洋町、長崎県対馬市、福岡県二丈町、鹿児島県南大隈町、秋田県上小阿仁村、の13市町村です。
 西尾漠・末田一秀著『原発ゴミは「負の遺産」』(創史社)の図表をみると、上記13市町村のほかにも、誘致の動きを示した自治体として、北海道幌延町、北海道夕張市、青森県東通村、青森県中泊町、岐阜県土岐市・瑞浪町、の6市町村が挙げられています。
 このうち、高知県東洋町は2007年1月に町長の独断でいったん応募しましたが、地元住民と周辺市町村、ひいてはまた、高知県と東洋町に隣接する徳島県の猛反対に会い、出直し町長選に推進派の町長が敗れて同4月に応募を取り下げたことは、新聞報道などで周知の通りです。

3 いのちとくらしとふるさとを守る£ケ取県連合婦人会長の発言
 パネラーのなかでは、いのちとくらしとふるさとを守る≠活動方針に、ことしで60周年を迎える鳥取県連合婦人会の井上耐子会長が、これまでの婦人会活動を踏まえつつ、パネラーとしての折に触れた短い発言時間をとらえて、つぎのような考えと危惧を率直に語られました。
 鳥取県連合婦人会は全地婦連(全国地域婦人団体連絡協議会)でも活躍された近藤久子さん(故人)という偉大な元会長のもと、地域の環境問題にも熱心に取り組んできた活動実績を持ちますが、この長きにわたるよき伝統を絶やさず引き継いでこられた現会長の井上耐子さんは、「私たちの(元)会長は化学者で、エネルギーを大事にし、食べ残しは持ち帰ろう、と呼びかけ、私たちも学習を重ね、節電・節水を心がけている」、とその基本姿勢をまず説明。
 今回のテーマである高レベル廃棄物についても、井上さんは女性の立場から「放射能という感覚を日本人は全部持つんではないでしょうか。私たちは女性で、いのちを育む体を持ち、妊娠中はレントゲンも取れない。子々孫々にまで遺伝子を伝える立場にあるだけに、放射能を非常に心配をいたします」。
 また、鳥取県は1943年にマグニチュード7.2の鳥取地震、並びに、2000年にマグニチュード7.3の鳥取県西部地震、という2つの大震災を半世紀余りの間に経験しているだけに、井上耐子さんは地震や地下水汚染による高レベル廃棄物の危険性について、「本当に大丈夫かしら。高レベル廃棄物が地下水を汚染し、放射能を一生涯浴びるとなったら、たとえ微量であっても、私は心配ですね」との危惧を口にされました。
 人間の日常生活が自然放射線や人工放射線に取り巻かれ、地中処分した高レベル廃棄物の年間最大線量は0.000005ミリシーベルトで、自然放射線やX線集団検診などに比べても問題にならないくらい低い ― と表を掲げて高レベル廃棄物の地中処分の安全性を強調する東嶋氏の説明は、机上の空論でとうてい信用できないが、この説明についても井上耐子さんは、「(高レベル廃棄物を)運ぶ道中はどうなるかです」と痛いところを突かれました。
 さらに、高レベル廃棄物はキャニスターに入れ、二重三重の防護を施して、鳥取空港くらいの広さの地下300メートルに埋設する ― との渡邊氏の図表を使った説明に関連して、井上耐子さんは「すごい数ですよね。自分が出したゴミでもないものを、ひとまとめに入れる!全国の分を持ってくるなら、鳥取県は受け入れませんで!!」、と思わず驚きの声を上げられました。
 井上耐子さんは鳥取県中部にお住まいですが、その鳥取県中部は鳥取県政を揺るがすウラン残土問題を抱えていて、このウラン残土問題と高レベル廃棄物の問題にも注意を喚起されました。この問題が時間の関係で議論打ち切りとなったのはまことに残念ですが、わずか40年か50年前に出たウラン残土のあと始末もできない国ないしは国の組織(日本原子力研究開発機構=旧動燃、旧核燃)の実態を目の当たりにすれば、1万年いや100万年もの超長期にわたる安全性の保証が必要な高レベル廃棄物の管理に、だれもが疑問を抱くのは当然ではないでしょうか。原発のないふる里を
 最後のパネラーのひとこと発言のなかで、井上耐子さんは中国電力が計画した谷の長尾鼻の原発計画を未然に食い止めた1983年の気高(けたか)郡連合婦人会(村上小枝会長=当時=)の小冊子『原発のないふるさとを』を掲げて、つぎのような印象的な言葉で結ばれました。「県連合婦人会はいのちとくらしとふるさとを守る♂^動を60年続けて、今年で60周年を迎えます。開発が起こる度に、私たちはメリット・デメリットも含めて、さまざまな学習を重ねてきました。これ(『原発のないふるさとを』)が婦人会の活動でした。おかげさまで長尾鼻に原発はありません」と。(『原発のないふるさとを』の表紙写真参照)
 この最後の発言に会場から拍手が起きたことは、ささやかながらまことに感動的な出来事でした。1980年代初頭に谷原発計画の地元の婦人会たる気高郡連合婦人会を先頭に、市民グループや県内各層の代表者たちが必死の運動でこの計画の息の根を止めたのも、つい昨日のことのように思い出されたからです。


4 高レベル廃棄物処分の泣き所≠会場から追及
 第2部のデスカッションは時間切れで打ち切られそうになっていましたが、さいわいにも会場からの質問を受け付けたので、私(土井)も手を上げて東嶋氏ないしは渡邊氏を名指して、以下の3点について追及しました。
第1に、アメリカの最終処分予定地のネバダ州ユッカマウンテンは、米政府も20年この計画を推進してきて、さきほどの映像をまじえた説明でも、世界でもっとも計画が進んでいるというが、ごく最近それも5日前(3月10日)の朝日新聞に、オバマ大統領がユッカマウンテンでの最終処分計画を凍結する方針との報道が出ている。これをどう受け止めているか?
 第2に、「自分たちの世代で出たものは、自分たちで解決しておく」といわれたが、さきのユッカマウンテンの最終処分計画に関連して、米原子力規制委員会が100万年後の放射線レベルを考慮して計画を審査すると発表した、との報道が2月19日の朝日新聞に出ていた。米環境保護局は1万年後までの周辺の放射線レベルを検討の対象としていたが、ワシントンの連邦高裁が2004年にこの基準は甘いとして、100万年後を想定した新基準を定めている。いったい、100万年も存続する国・企業・制度があり得るか?
B第3に、小学生の身長ほどと説明されたキャニスター1個には、広島原爆30発分の放射能が含まれているが、その説明がなかった。これが漏れたら、誰がどう責任を取るのか?私が持っている科学技術庁のパンフレットにも、高レベル廃棄物が環境に及ぼす影響として、(1)(地面の隆起や火山噴火などで)直接出て来る(2)地下水の移動に伴って出て来る、2つの可能性に言及している。
 第1の質問には、渡邊氏が「ユッカマウンテンが本当に科学的に大丈夫か議論はある。科学的な敵地でなければ、代替案が他にないか、直接処理でなく再処理も含めて、場所なり方法で、政権が代わったあとも、米政府は重要な課題として向き合っている」と答えましたが、これは苦しい言い逃れです。米国のユッカマウンテンがすでに安全審査の段階で、あたかも世界の先端を切っているかのような当日の会場での説明と図表も、私から近々のホット・ニュースを突き付けられて化けの皮をはがされたに等しく、本当は米政府が20年も進めてきた計画が地元の住民や州政府の猛反対で頓挫しているというのが実態なのです。
 第2の質問は杤山氏が引き取って、「米原子力規制委員会の話は、100万年管理しろという問題ではない。捨てた時に、自分たちの生活圏に戻ってこないか、(放射線は)十分小さいか、その時点で管理をはずしていいかという話だ。1万年の予測ではダメだから、この間、出直したということはある」と答えましたが、これも論点ずらしの居直りです。1万年後でも気が遠くなりますが、その100倍の100万年後の放射線レベルまで考慮して審査し、一応審査にパスして管理をはずしたと仮定して、その後に高レベル廃棄物が環境に漏れ出る重大な事故を起こしたら、いったい誰がそのあと始末の責任を取るのでしょうか。100万年間も周辺の環境の安全性を保障できると考えること自体、アニメやSFの空想の世界ですが、机上の空論で審査し管理をはずすというのも、考えてみれば無責任な話で、要するにあとは野となれ山となれ≠フ埋め捨て≠ノほかなりません。
 第3の質問も杤山氏が引き取って、「広島原爆30発分といわれるが、核分裂して出てくる灰の量がそれだけあるということで、放射能がそれだけあるわけではない。(放射能は)放射線を出す能力だから、広島で爆発して、残ったあとの灰も、(放射線が)どんどん減っている」と分かったような、分からないような答えで、正直なところ、私にもよく分かりませんでした。ちなみに、私の手元にある科学技術庁のパンフレット『高レベル放射性廃棄物 ― 原子力利用の必要性と地層処分の見通し ― 』は、「高レベル放射性廃棄物の地層処分が環境に影響を及ぼすとしたら・・・」として、「廃棄物が直接出て来るシナリオ(接近シナリオ)」「地下水の移動に伴って放射性物質が出て来るシナリオ(地下水シナリオ)」の2つのシナリオを挙げています。つまり、当局も高レベル廃棄物が環境に漏れ出る可能性はそれなりに認識しているということです。

5 処分候補地の公募と県内の市町村の動向
 いまのところ、私たちが知る限り、鳥取県内には高レベル廃棄物を受け入れる市町村の動きはありません。しかし、高レベル廃棄物の処分地選定に深く関与していた旧動燃が、かつて鉱業権を設定して処分地探しをした中国地方の71カ所のうち、38カ所が鳥取県内であった事実から、私たちもウラン残土問題と並行して高レベル廃棄物の動向には目を光らせてきました。
 とくに、人形峠施設に隣接して膨大な電源三法交付金を受けてきた三朝町は、鳥取県内38カ所のうち23カ所という最大数の鉱業権が旧動燃によって設定されていたことから、ラジウムという放射能を観光の看板にしていることも併せて、注意が必要な市町村の1つと考えてきました。
 鳥取県内の反原発5団体で構成する鳥取県反原発連絡会は、高レベル廃棄物の処分実施主体である原子力発電環境整備機構による処分候補地の公募開始の翌2003年5月、県内39市町村を対象とする「高レベル放射性廃棄物処分地の公募に関する公開質問状」を直接持参(三朝町、佐治村、智頭町、用瀬町)、ないしは、郵送(他の35市町村)して状況の把握に努めました。(資料1「高レベル放射性廃棄物処分地の公募に関する公開質問状」を参照)
 人形峠に近いことや旧動燃の鉱業権の設定状況から、私たちが要注意とみなして公開質問状を直接持参した三朝町、佐治村、智頭町、用瀬町(現在、佐治村と用瀬町は鳥取市に合併)の4町村からは、高レベル廃棄物の処分地になることは「受け入れられません」「認められません」「(その)考えはありません」「拒否する」との回答が寄せられました。
 公開質問状を郵送で送った市町村からも、無回答ところも少なからずあったものの、応募しているところも処分を受け入れるところもありませんでした。かつて青谷原発計画を未然に阻止し、重要な県政課題となった10数年越しのウラン残土問題で大揺れの最中だけに、放射能がからむ高レベル廃棄物の処分候補地に名乗り出る市町村がないのも、当然といえば当然でした。(資料2「高レベル放射性廃棄物処分地に関する公開質問状への回答一覧表」を参照)
 しかし、慢心は禁物。私たちは全国のみならず世界の動向を注視しながら、県内市町村が高レベル廃棄物の処分候補地にならないよう、引き続き警戒と活動を続けていかねばならないと心を引き締めているところです。

 

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